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「定額残業代」の支払と実務の整理

1.定額残業代

定額残業代とは、毎月固定的に定額の残業代を支払う方法をいいます。この方法としては色々な類(以下表)がありますが、その代表的な例を挙げてその問題点等を説明します。

- 類型 規定例
1 割増賃金を定額で支払う方法
(定額手当方式)
毎月○時間分の割増賃金を支払う
2 基本給の中に定額残業代を含ませる方法
(包括支払方式)
基本給には○時間分の割増賃金を含めているものとする。
3 特定の手当を定額残業代として支払う方法 職務手当○円は割増賃金として支払う。
4 年棒の中に定額残業代分を含ませる方法 年棒には○時間分の時間外労働に係る対価を含めるものとする。

2.労務管理上の留意点

定額残業代は基本給とは「別の手当」(定額手当方式)として支給する方法と「基本給に含めて」(包括支払方式)支給する方法があります。

  1. 定額手当方式の留意点(表の1、3)
    金額の定め方として「時間外労働時間25時間分」と定める方法と「残業代として○○円支払う」と定める方法の2種類があります。
    1. 割増賃金を定額で支払う方法

      金額設定の場合は、時給単価が異なれば見込まれる時間外労働時間数が異なってくる点が問題です。つまり、同じ32,000円の定額残業代でも、割増賃金単価が1,250円の者であれば25時間分ですが、単価が上がると時間数が減ってしまいます。金額のみの明示は時間単価について注意が必要です。

    2. 特定の手当を定額残業代として支払う方法

      この方式を採用する場合には、特定の手当(例えば「職務手当」)が残業代であることを就業規則等で明らかにする必要があります。多くの裁判例ではこの点が争われています。就業規則に定める場合、「残業代相当分として職務手当を支払う」程度の規定ではリスクがあります。「何時間何分」として規定することが必要です。しかし、職務手当等は定額で設定するのが一般的であるため、「何時間分」という規定が厳しいかもしれません。この場合、「○○手当には、○時間分の残業代が含まれる」として手当の一部を定額残業代として支払うことを規定するとよいでしょう。

  2. 基本給に含めて(包括支払方式)支払う方法(表の2)
  3. 基本給と残業代が一体として支払うため、定額手当方式にない問題が生じます。

    この方法の場合は、労働者個人の給与明細に明示することで有効になると考えます。

    ⇒時間数と金額の両方を明示。

  4. 年棒制の中に定額残業代を含ませる方法(表の4)
  5. 例えば、就業規則に「職務手当の中に時間外賃金相当額を含むものとする」とだけ規定していた場合です。これだけでは、時間外賃金相当額がいくらなのかは不明であり、法所定の額を上回っているのかどうか検証する術もありません。従って、このような場合、職務手当が定額残業代であるという主張さえ認められなくなるリスクがあります。
    この方法の場合は、労働者個人の給与明細に明示することで有効になると考えます。 
    ⇒時間数と金額の両方を明示。

  6. 包括支払方式の問題
  7. 年棒制の中に定額残業代を含めて支払う方法があります。この場合「年間240時間分」と設定した場合には、労基法上の賃金は1ヵ月ごとの規制を受けるため、「月間20時間×12ヶ月」として把握する必要があります。この際に、ある月に20時間を超えた場合には、その月の残業代は追加で支払う必要があります。

<計算の方法> (年間平均月所定労働時間数は173時間とし、基本給205,000円の場合)

金額の設定の場合 ← 時間数が不明
(規定例)基本給(205,000円)のうち、32,000円は定額残業代として支給する。
a. 通常の労働時間の賃金計算
(205,000円-32,000円)÷173時間=1,000円
b. 割増賃金単価の計算
1,000円×1.25=1,250円
c. 時間外労働時間数を計算
32,000円÷1,250円=25時間 ⇒ 労働時間数を労働者に明示すること。

※残業時間数が25時間を超えた場合には、その超えた部分は支払う旨の規定が必要です。
※定額残業代として区分して支給する場合に賃金形態を改定する場合は、対象労働者への説明と同意書をとることをお勧めします。

3. まとめ

定額残業代が有効となるためには次の用件を満たす必要があります。

  1. 定額残業代の額が法所定の額と同額あるいは上回っていること。
  2. 定額残業代部分とそれ以外の賃金の区分が判別可能であること。
  3. 予め見込んでいる「時間数」や「金額」が明らかになっていること。
  4. 2,3に基づき、実際の時間外労働時間数が当初の見込みの時間数を超えるときは、超えた時間数に対する差額を支給すること。
  5. 新たに定額残業代を採用した場合には不利益変更が生じる場合には、労働者の個別の同意を得ること。
  6. 就業規則を改定した場合には、その規定内容を労働者に説明すると共に、所轄労働基準監督署へ届出(労働者が10人未満は除く)すること。


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